最高裁判所第一小法廷 昭和27年(オ)60号 判決 1953年5月14日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人等の負担とする。
理由
上告理由について。
記録によると、所論嘱託証人訊問の結果については、原審最終の口頭弁論において適法に弁論がなされている。すなわち裁判長は該嘱託証人訊問の調書を当事者に掲示し、被控訴代理人はその証拠調の結果につき演述していることが認められる。従つて、これによつて右証拠調の結果は証拠として適法に顕出されたのである。それ故証拠共通の原則に従い、裁判所は自由な心証によつてこれを事実認定の資料となすことができるのであつて、必ずしもその証拠調の申出をなし、若しくはその証拠調の結果を援用する旨を陳述した当事者の利益にのみこれを利用しなければならないものではない。当事者は訴訟の実際において屡々一定の証拠を自己の利益に援用する旨を陳述することがあるけれども、それは裁判所が職責としてなす証拠判断につき、その注意を喚起する程の意義を有するに過ぎないのであつて、裁判所はかかる陳述の有無を問わず、適法に提出されたすべての証拠については、当事者双方のために共通してその価値判断をなさなければならないのである。されば、所論は採ることを得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎)